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鳥取地方裁判所 平成8年(行ウ)2号 判決

原告

日本海産業株式会社

右代表者代表取締役

岸野八重子

右訴訟代理人弁護士

水島昇

右訴訟復代理人弁護士

坂口博信

一澤昌子

被告

鳥取税務署長 豊田耕輔

右指定代理人

勝山浩嗣

長尾俊貴

藤音寛

湯川明則

松下悟

武本俊夫

小笠原建治

主文

一  被告が、原告に対して、平成二年一一月二七日付けでなした原告の昭和六二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度に係る法人税の更正処分(ただし、平成八年九月三〇日付けで国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額一億三一一四万七八二六円を超える部分及び課税土地譲渡利益金額一億〇〇四五万円を超える部分、並びに右法人税の過少申告加算税賦課決定処分(ただし、平成八年九月三〇日付けで国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)のうち右更正処分の取り消されるべき部分に係る部分は、いずれもこれを取り消す。

二  被告が、原告に対して、平成二年一一月二七日付けでなした原告の昭和六二年一月分から同年一二月分までの源泉徴収に係る所得税についての納税告知処分のうち支払額二六九〇万円を超える部分及び右源泉徴収に係る所得税の不納付加算税賦課決定処分のうち右納税告知処分の取り消されるべき部分に係る部分は、いずれもこれを取り消す。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告の昭和六二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度に係る法人税について、被告が、平成二年一一月二七日付け法人税額等の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書をもって、法人税額を更正し、過少申告加算税及び重加算税を賦課した更正処分及び各賦課決定処分(ただし、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分については、いずれも審査請求による一部取消後の部分)を取り消す。

二  原告の昭和六二年一月分から同年一二月分までの源泉徴収に係る所得税について、被告が、平成二年一一月二七日付け源泉徴収に係る所得税の加算税賦課決定通知書及び納税告知書をもって、源泉徴収に係る所得税の納税を告知し、不納付加算税を賦課した納税告知処分及び賦課決定処分を取り消す。

第二事案の概要

本件は、被告が、原告に対して、原告の昭和六二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)に係る法人税について、更正(以下「本件更正処分」という。)、過少申告加算税賦課決定(以下「本件過少申告加算税賦課決定処分」という。)及び重加算税賦課決定(以下「本件重加算税賦課決定処分」という。)をするとともに、昭和六二年一月分から同年一二月分までの源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)について、納税告知(以下「本件納税告知処分」という。)及び不納付加算税賦課決定(以下「本件不納付加算税賦課決定処分」という。)をしたことについて、原告が、右各処分(以下「本件各処分」という。)にはいずれも違法があるとして、その取消しを求めた事案である。

なお、被告は、本件納税告知処分及び本件不納付加算税賦課決定処分取消請求に係る訴えの却下を求めるとともに、本件各処分取消請求の棄却を求めている。

一  争いのない事実等(証拠により認定した事実を含む場合については、認定に用いた証拠を適宜掲記した。)

1  当事者

原告は、昭和四五年七月一四日、株式会社相互信販として設立されたが、昭和六一年一〇月二四日、商号を日本海産業株式会社と変更した(乙一七、三七)。

原告は、法人税法二条一〇号に規定されているいわゆる同族会社であり、本件事業年度末である昭和六二年一二月三一日当時における発行済株式総数は二万一〇〇〇株であったが、当時の代表取締役であった岸野高春(以下「高春」という。)が一万一四〇〇株、高春の妻である岸野八重子(現在の原告代表取締役。以下「八重子」ともいう。)が八二〇〇株、高春と八重子の長男である岸野優(以下「優」という。)が七〇〇株、高春と八重子の長女である石田雅栄が七〇〇株をそれぞれ保有し、右四人で発行済株式の全部を保有していた(乙五四)。

2  本件各処分の経緯

(一) 法人税に関する本件各処分の経緯

(1) 原告は、昭和六三年二月二九日付けで、本件事業年度に係る原告の法人税の確定申告をした。

被告は、右確定申告について、平成二年一一月二七日付けで、本件更正処分、本件過少申告加算税賦課決定処分及び本件重加算税賦課決定処分をした。

そして、被告は、本件更正処分において、〈1〉原告が、鳥取市、鳥取市土地開発公社及び原告の三者間において昭和六〇年一一月一日付けで締結した契約書に基づいて、当時原告が所有していたポンプ場設備の管理に係る負担金(以下「本件負担金」という。)という名目で、鳥取市から四六七九万八〇〇〇円を受け入れ、これを前受金として以後一〇年間で均等額を雑収入として計上する経理処理をしたことについて、右ポンプ場設備は、昭和六一年一二月二六日付けの寄付土地等の受納通知及び同日付けの確約書に基づき、昭和六二年三月二日付けで鳥取市へ引き渡され、同日以後は、鳥取市が管理し、原告の右ポンプ場設備に係る管理義務は消滅したのであるから、前受金として負債に計上されている本件負担金の当時の残高三六六五万八四〇二円は、右引渡しのあった日の属する事業年度である本件事業年度の雑収入に計上すべきものとして本件事業年度の当期利益に加算すべきであること、〈2〉原告が、本件事業年度において昭和六二年一二月二二日まで原告の取締役であった優に対する役員報酬と役員退職金を、本件事業年度における損金として経理処理したことについて、優は、本件事業年度当時、鳥取大学医学部付属病院に勤務し、継続してもっぱらその業務に従事していた者であって、原告における具体的な勤務実績は認められず、原告の取締役としての地位は名目的なものにすぎないから、同人に対して報酬として支払われたとされる三〇〇万円は、その支払状況からして、当時の代表取締役であった高春に対する報酬と認められるのであり、そうすると、右三〇〇万円は、原告の取締役会で決定された高春の年間報酬額一八〇〇万円を超える過大報酬として、本件事業年度の損金に算入することはできないし、優に対して退職金として支払われたとされる二〇〇〇万円は、同様に高春に対する賞与と認められるのであり、そうすると、右二〇〇〇万円は役員に対する賞与として、本件事業年度の損金に算入することはできないこと、〈3〉原告は、昭和六二年九月二五日、当時原告の従業員であった八重子に対して、鳥取市興南町六一番二の宅地(以下「本件土地」という。)及び本件土地上に存在する建物(以下「本件建物」という。)をそれぞれ譲渡したが、原告が、右譲渡における本件土地代金を五一〇〇万円、本件建物代金を二五〇〇万円として合計七六〇〇万円で経理処理したことについて、右譲渡当時の本件土地の時価は六六七七万四〇三〇円、本件建物の時価は五五四九万五〇五三円と判断されるから、それぞれの差額の合計額(土地についての差額一五七七万四〇三〇円と建物についての差額三〇四九万五〇五三円の合計四六二六万九〇八三円)は本件事業年度の当期利益に加算すべきであることを理由として本件事業年度の所得金額を加算し、これに伴い、右〈1〉及び〈3〉については本件過少申告加算税賦課決定処分をなし、また、右〈2〉については原告が課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したとして本件重加算税賦課決定処分をなした。

(2) 法人税に関する本件各処分について、原告は、平成二年一二月二七日付けで、異議申立てを行ったところ、被告は、平成三年四月八日付けで、これをいずれも棄却する旨の決定をした。

(3) 右決定を不服とする原告は、平成三年五月四日付けで、国税不服審判所長に対して審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、平成八年九月三〇日付けで、右(1)の〈3〉における時価について、本件土地は五六四九万二一三一円、本件建物は三八八四万六五三七円と判断すべきであるとして、それぞれの差額の合計額(土地についての差額五四九万二一三一円と建物についての差額一三八四万六五三七円の合計一九三三万八六六八円)の限度で本件事業年度の当期利益に加算すべきであると判断して、その限度において、本件更正処分及び本件過少申告加算税賦課決定処分をそれぞれ一部取り消す旨の裁決をなし、また、同日付けで、本件重加算税賦課決定処分についての審査請求を棄却する旨の裁決をなした。

(4) なお、右経緯の詳細については別表一ないし三のとおりである。

(二) 源泉所得税に関する本件各処分の経緯

(1) 被告は、平成二年一一月二七日付けで、昭和六二年一月分から同年一二月分までの源泉所得税についての本件納税告知処分及び本件不納付加算税賦課決定処分をしたが、その理由は、優に支給されたとされる役員報酬三〇〇万円と役員退職金二〇〇〇万円についてはいずれも高春に対して支払われたものと認められるし、八重子に対して譲渡された本件土地及び本件建物の譲渡価格と時価との差額については、見なし役員報酬として八重子に支払われたものと認められるところ、右支払のいずれについても源泉所得税の納付がなされていないというものであった。

これに対し、原告は、被告に対する異議申立てをしなかったが、右各処分がなされてから約二年半後の平成五年六月一一日付けで、国税不服審判所長に対して審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、同年一〇月一五日付けで、右審査請求は、異議申立てを経ずになされたものであり、仮に異議申立てを経ることを要しない場合であったとしても、不服申立期間を徒過してなされており、これについてやむを得ない理由があるともいえないから不適法であるとしてこれを却下する旨の裁決をした。

(2) なお、右経緯の詳細については別表四のとおりである。

3  本訴の提起

原告は、右(一)及び(二)の裁決がなされた後である平成八年一二月三日に、本件各処分(本件更正処分及び本件過少申告加算税賦課決定処分については、右(一)(3)の裁決により一部取り消された後のもの)の内容に不服があるとして本件訴訟を提起した。

二  争点

1  法人税に関する各処分の適法性

(一) 本件負担金の性質及びこれに係る前受金残高を収益として計上すべき時期

(二) 優に対する役員報酬及び役員退職金が高春に対する報酬又は賞与と認められるか。

(三) 本件土地及び本件建物の譲渡当時における時価

2  源泉所得税に関する各処分の取消しを求める訴えの適法性及び仮に右適法性が認められる場合の右各処分の適法性

三  争点に対する当事者の主張の要旨

1  争点1(一)について

(一) 原告

本件負担金は、原告の宅地造成開発計画が鳥取市の小学校建設計画によって一〇年遅れることを余儀なくされたための収益補償金としての性格を有するものである。

仮に、本件負担金を益金として一時に計上しなければならないとしても、原告が本件ポンプ場の管理義務を鳥取市に移転したのは、昭和六一年一二月二六日付けで受納通知を受けた時点であるから、その計上すべき事業年度は、本件事業年度ではなく、その前事業年度である昭和六一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度である。

(二) 被告

本件負担金は、原告の本件ポンプ場の維持管理という継続的労務の提供に対する対価の前払金であり、その維持管理義務が鳥取市に移転したのは、受納通知に引渡期限等として定められている昭和六二年三月二日であるから、未経過分の残高は本件事業年度の益金として計上すべきである。

2  争点1(二)について

(一) 原告

優は、原告の取締役に就任以来、的確な判断のもとに取締役として重要な職務を果たしてきたが、本件事業年度においても、勤務歯科医師としての業務を行いながら原告の経営に関与することは十分可能であり、会社に出向いたり電話などの通信手段を用いることにより、可及的速やかに原告の固定資産の売却等を進言するなど会社経営に対する的確なアドバイスをした。

(二) 被告

本件事業年度においても、優は名目的な取締役にすぎなかった。そして、高春は、自己の判断で原告の経理上の処理を行うことができたのであり、優に対する役員報酬及び役員退職金として計上された資金を自己の管理、支配の下で、自由に処分することができた。

3  争点1(三)について

(一) 原告

本件土地及び本件建物の譲渡当時の時価は、合計七六〇〇万円であった。

(二) 被告

本件土地及び本件建物の譲渡当時の時価は、合計九五三三万八六六八円であった。

4  争点2について

(一) 原告

法人税と源泉所得税の関係は、本税と附帯税との関係と同視できるから、本税について不服申立て前置の要件が充たされている場合には附帯税について不服申立て前置の必要がないのと同様に、本件においても、不服申立て前置は必要がない。

(二) 被告

源泉所得税に関する各処分に係る訴えは、不服申立て前置の要件を欠く不適法なものである。

なお、原告が八重子に譲渡した本件土地及び本件建物の譲渡価額と適正価額の差額は、八重子に対する経済的利益であるから、臨時的な給与として役員賞与と認めるのが正当であり、被告のなした右各処分自体は適法である。

第三証拠

書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四争点に対する判断

一  争点1(一)について

1  証拠(甲一、二の1、2、三、三〇、三四、七四の1、2、八〇の1ないし7、乙三、四、一二、一八、三〇、三二、三九、四五ないし四七、四九ないし五一、五二の1、2、五四、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 原告は、商号変更以前の昭和五〇年ころより鳥取市宮長地区(以下「宮長地区」という。)における宅地造成開発を計画し、昭和五一年から昭和五七の間に宮長地区の宅地造成開発事業に係る開発許可を鳥取県知事から受けて、右開発事業を実施してきた。そして、昭和五六年三月に、宮長地区住民から、同地区における既存の住宅地は、その付近にある遊水池が狭小であることや右既存住宅地が新規造成地よりも低いことなどから、洪水時に冠水の危険性があるため、今後の同地区内における宅地造成開発については、これらの危険を回避できるだけの能力と設備を備えた排水ポンプ施設の設置が絶対必要であるとの陳情が鳥取市長に対してなされ(甲一)、さらに、昭和五七年四月三〇日にも、宮長地区住民から、右排水ポンプ施設の維持管理は全面的に鳥取市が行うべきであるとの陳情が同市長に対してなされたことなどもあって、昭和五七年において、宮長地区付近にある大路川の洪水による排水路への逆流を防止するとともに内水を排除することを目的として、同地区にあった原告所有地上に、建物、排水ポンプ、導水路、樋門及びその付属施設からなるポンプ場施設(以下「本件ポンプ場」という。)を設置し、さらに昭和五七年五月二九日付けの覚書(甲二の1)により、原告、宮長地区長及び鳥取市の三者間において、本件ポンプ場の維持管理を原告が行う旨の合意をした。

(二) ところが、昭和六〇年になって、原告は、同年二月付けの陳情書(甲三)により、鳥取市長に対し本件ポンプ場とその敷地を鳥取市に買い上げてもらいたい旨の陳情を行った。右陳情書においては、昭和五七年ころから鳥取市教育委員会において検討されてきた既存の小学校の分離校新設について、その建設用地(なお、昭和六〇年三月一五日に同委員会から依頼を受けた鳥取市が、その後に鳥取市土地開発公社に対して右分離校建設用地の買収を依頼し、同年五月一日に買収予定地のすべての地権者と契約を締結してその買収を終えた。)が原告の計画していた右(一)の開発事業予定地内にあったことから、同予定地内の宮長地区住民のために洪水時の逆流を防止することと内水を排除することを目的としていた本件ポンプ場が、同地区住民のためだけでなく小学校を設置する鳥取市のためにもなって、より公共的な性格の強い施設になることなどがその陳情の理由とされていた。

そして、原告は、本件ポンプ場について、昭和六〇年一一月一日付けの契約書(乙三)により、鳥取市及び鳥取市土地開発公社との間において、契約を締結したが、右契約書には、〈1〉前文において、「鳥取市と、鳥取市土地開発公社と、原告とは、・・・本件ポンプ場の設置費及び管理費に関して、次の条項により契約を締結する。」との記載が、〈2〉第二条において、「鳥取市土地開発公社は、・・・本件ポンプ場の管理にかかる負担金(前記のとおりこれを「本件負担金」という。)を、鳥取市に代わって原告に支払う。本件負担金は、原告の請求に基づき、昭和六〇年一一月五日に一括して支払う。」との記載が、〈3〉第三条において、「本件負担金は、この契約の締結の日から向後一〇年間の本件ポンプ場の管理に係る額とする。本件負担金の額は、金四六七九万八〇〇〇円とする。」との記載が、〈4〉第四条において、「原告は、一〇年経過後において、本件ポンプ場の設置費及び管理費等に関し鳥取市に一切の負担を求めない。」との記載がそれぞれなされている。

(三) 原告は、昭和六〇年一一月五日、本件負担金を鳥取市土地開発公社から受領し、これを一〇年間にわたる前受金として経理処理することとし、昭和六〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和六〇年事業年度」という。)においては、そのうち右一〇年間のうちの二か月分にほぼ対応する額である七八万〇〇〇六円を法人税確定申告において、雑収入の額に算入した。

(四) 原告は、昭和六一年一二月二〇日付けで本件ポンプ場とその敷地及び維持管理費七二〇万円を寄付する旨の寄付申込書を鳥取市長に対して提出したところ、鳥取市長は、同月二六日付けで、原告に対し受納通知したが、その通知書(甲七四の1、乙四)には、〈1〉前文において、「原告は、鳥取市に本件ポンプ場の引渡をするにあたっては、・・・次の条件を履行しなければならない。」との記載が、〈2〉右条件として、「原告は、本件ポンプ場について、鳥取市の指定する箇所の修繕及び改良等を行う。本件ポンプ場の修繕及び改良等の履行期限は、昭和六二年三月一日まで、引渡時期は同月二日とし、それまでの維持管理等は従来どおり原告が行う。」との記載がなされており、また、右受納通知を受けた原告は、昭和六一年一二月二六日付けで鳥取市に対して確約書を提出しているが、右確約書にも、右〈1〉及び〈2〉と同旨の記載がなされている。

(五) 本件ポンプ場の敷地については、昭和六一年一二月二六日付けで、同月二〇日寄付を原因として、鳥取市に対する所有権移転登記がなされた。

また、本件ポンプ場については、昭和六二年三月ころに、原告により部分的な補修ないし修繕がなされた。

なお、鳥取市においては、鳥取市、原告及び宮長地区長の三者間で昭和五七年五月二九日付け覚書によりなされた合意を、昭和六二年三月二日付けで解除することについての内部決裁を了していたが、その解除の理由としては、鳥取市が同日付けで原告から本件ポンプ場の引渡しを受けたことをその理由としていた。

(六) 原告は、前記のとおり一〇年間にわたる前受金として経理処理することとしていた本件負担金について、一〇年間のうちの一年分にほぼ対応する額である四六七万九七九六円を昭和六一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和六一年事業年度」という。)の法人税確定申告において、雑収入の額に算入するとともに、鳥取市に対して本件ポンプ場とその敷地及び維持管理費七二〇万円を寄付したとして、その合計額九二五四万三四〇〇円を寄付金として経理処理し、右確定申告において、右同額を損金の額に算入した。

(七) 原告は、前記のとおり一〇年間にわたる前受金として経理処理することとしていた本件負担金について、一〇年間のうちの一年分にほぼ対応する額である四六七万九七九六円を本件事業年度の法人税確定申告において、雑収入の額に算入した。

その結果、本件事業年度末における本件負担金にかかる前受金勘定の残高は、三六六五万八四〇二円(本件負担金の額から、原告が昭和六〇年事業年度、昭和六一年事業年度及び本件事業年度の法人税確定申告においてそれぞれ雑収入に算入した額の合計額を控除した額)となった。

2  以上の事実を前提に検討するに、本件ポンプ場は、原告により設置されたものであって、当初は、原告による本件ポンプ場の維持管理行為は、宅地造成については排水ポンプが不可欠であるとの宮長地区住民の意向を反映することにより原告の宅地開発事業を円滑に遂行するためのものであったが、その後の昭和六〇年一一月一日付けの契約締結当時の時点では、洪水時の逆流回避や内水の排除といった本件ポンプ場による利益を受ける範囲内の地域に鳥取市が小学校を建設することになったため、原告による本件ポンプ場の維持管理行為が、原告の宅地開発事業遂行のためだけではなく、小学校を建設する鳥取市のためにもなることになったという意味で、本件ポンプ場を取り巻く客観的事情が変化していった状況が認められるのであり、そのような状況下で、右契約に基づいて、鳥取市から原告に対して支払われることになった本件負担金は、本件ポンプ場を原告が維持管理することにより鳥取市が受けることになる右利益の対価として鳥取市から原告に対して支払われることになったもの、すなわち原告の本件ポンプ場の維持管理という継続的な労務の提供が、鳥取市のためという公共の利益にもなることにかんがみて、その労務の提供に対する対価の前払として支払われたものというべきである。

そうすると、本件負担金については、通常の会計処理の準則に従い、労務の提供がなされた期間に対応する形でその対価をその期間の収益として順次会計処理すべきものであり、途中で残りの労務提供が不要となった場合においては、残額を返還しなければならないような場合を除いて、労務提供が不要となった時点における収益として会計処理すべきである。

そして、本件においては、昭和六一年一二月二六日の受納通知において、本件ポンプ場の引渡期限を昭和六二年三月二日とし、右引渡期限まで原告において本件ポンプ場の維持管理行為をする旨定められていること、鳥取市では、本件ポンプ場の管理について鳥取市、原告及び宮長地区長の三者間でなされた合意を記した昭和五七年五月二九日付けの覚書を昭和六二年三月二日限りで解除することが、内部決裁により決定されていたこと、現実にも昭和六一年一二月二六日以降から昭和六二年三月ころまでの間は、原告により本件ポンプ場の部品交換等の維持管理行為が断続的になされていたことなどからすると、原告の本件ポンプの維持管理行為という労務の提供が不要となった時期は、同年三月二日であるというべきである。

そうすると、原告が一〇年間にわたる前受金として経理処理することとしていた本件負担金のうち、原告の右労務提供が不要となった時点において未経過となった残高分については、その時点である昭和六二年三月二日における収益として処理すべきことになるから、本件事業年度末日における残高分三六六五万八四〇二円を本件事業年度における益金として算入すべきである。

したがって、この点について、本件更正処分に違法はない。

3  なお、原告は、鳥取市の小学校建設計画により原告の宮長地区における宅地開発行為が頓挫したという結果が生じた状況からすると、本件負担金は、右開発行為が頓挫したことに対するその後一〇年間分の原告の営業利益を補償する性格を有すること、すなわち本件負担金は原告の事業に対する収益補償金としての性質を含むものであると主張するが、昭和六〇年一一月一日付けの契約書の記載中には、右主張の裏付けとなるような記載はなく、また、他にその裏付けとなるような的確な証拠は存在しない(なお、証人優、原告代表者の各供述中には、右主張に符合する部分があるが、客観的な裏付けを欠いているところがあり、その部分を直ちに採用することはできない。)し、本件負担金の支払を定めた昭和六〇年一一月一日付けの契約は、右のとおり同年二月付けの原告(当時の商号は株式会社相互信販)の鳥取市長に対する陳情書(甲三)を受けてなされたものであるが、右陳情書によれば、小学校の建設予定地は、当時原告が開発許可を受けていた区域に隣接するものの、開発許可の対象地区そのものではなく、開発予定地域にすぎなかったこと、右陳情書の内容を検討してみても、その陳情の趣旨は、本件ポンプ場の買取やその管理費の公的負担にその主眼があり、小学校建設によって原告会社が被るおそれのある営業利益に対する損害の補償を求める内容にはなっていないこと、原告が指摘するような地価の高騰や開発計画の狂いというのは、右陳情の必要性を強調するための事情の一つとして記載された形式になっていること、本件負担金の算出方法は、本件ポンプ場及びその敷地の原価に小学校の建設予定地の面積を原告の既開発地及び開発予定地の全面積で除した割合を乗じることにより算出されており、この算出方法においては、本件ポンプ場によって利益を受ける範囲内の面積に占める小学校建設予定地の面積の割合、すなわち公共性の程度が考慮されているといえること(乙五一)、契約締結当時の昭和六〇年の時点においては、宮長地区に関する鳥取市の下水道整備事業計画は少なくとも以後一〇年間についてはその構想がなかったことから、本件負担金に係る期間を向後一〇年間と定めたこと(乙五〇)などが認められ、これらの事情からすれば、原告の右主張を採用することはできない。

二  争点1(二)について

1  証拠(甲一一の1ないし3、一八、四四の1ないし4、四七、四九、五〇、五三、五四の1ないし40、五六、五七の1、2、六〇ないし六六、七三、乙五四、証人優、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 優は、昭和五三年三月に鳥取市内の高校を卒業後、同年四月に岐阜歯科大学に入学して岐阜県内に居住し、昭和五九年三月に同大学を卒業後、同年六月から平成元年四月までの間、鳥取県米子市に所在する鳥取大学歯学部附属病院(以下「鳥大附属病院」という。)において歯科医師として勤務し、同市に居住していたが、右勤務と並行して、昭和六〇年七月から昭和六一年六月までの間は、鳥取県岩美町に所在する同町国民健康保健岩美病院(以下「岩美病院」という。)にも勤務し、その間は、主に鳥取市内の実家宅に居住していた。その後、平成元年四月に鳥大附属病院を退職し、同年六月四日からは鳥取市内においてキシノ歯科医院を開業して現在に至っている。

また、優は、右岐阜歯科大学に在学中の昭和五五年一一月一日に、同年一二月に原告の取締役二名が辞任することにより取締役の員数が少なくなること、優が原告代表者の長男であったことなどから、原告の取締役に選任され、その後、鳥大附属病院に勤務中の昭和六二年一二月二二日にこれを辞任した。なお、優は、平成六年七月三〇日付けで原告の監査役に就任している。

(二) 原告における役員報酬の年額は、昭和六一年一月一四日に開催された原告の取締役会において、高春が一八〇〇万円、優が三〇〇万円と決議されており、その後、本件事業年度末まで改定されていない。

原告は、本件事業年度において、高春に対して一八〇〇万円、優に対して三〇〇万円の役員報酬を計上し、いずれも本件事業年度の法人税確定申告において損金の額に算入した。

なお、優の取締役就任期間中における役員報酬の扱いについては、次のとおりであった。

(1) 昭和五六年一月から昭和五八年一二月までの間の役員報酬の月額は一五万円であり、原告は、右一五万円から、源泉所得税としての七二〇〇円と家賃光熱費としての五万円、国民健康保険税等として一万三〇〇〇円をそれぞれ差し引いた残りの八万円を優に対して送金ないし手渡していたが、それでは優の生活費として足りない場合があり、時々さらに送金することがあった。

(2) 昭和五九年一月から同年一二月までの間の役員報酬の月額は二〇万円であり、原告は、優に対して、同年一月から同年三月までに間は、源泉所得税としての一万一一七五円と家賃光熱費としての五万円と国民健康保険税等としての一万三〇〇〇円をそれぞれ差し引いた残りの一二万六〇〇〇円を送金ないし手渡し、同年四月から同年一二月までの間は、源泉所得税としての一万一一七五円を差し引いた残りの一八万八八二五円を送金ないし手渡していた。

(3) 昭和六〇年一月から昭和六一年八月までの間は、優に対する役員報酬として原告が優に支払った金員はなく、したがって、その間、損金として計上される優に対する役員報酬はなかった。

(4) 昭和六一年九月から同年一二月までの間の役員報酬の月額は二五万円であり、原告は、源泉所得税としての一万六〇五〇円を差し引いた残りの二三万三九五〇円を優に対して手渡していた。

(5) 昭和六二年一月から同年一二月までの間の役員報酬の月額は二五万円であり、原告は、源泉所得税としての四万七六〇〇円を差し引いた残りの二〇万二四〇〇円を優に対して手渡していた。

(三) また、昭和六二年一〇月一〇日、優は、原告に対し、同年一二月二二日付けで原告の取締役を辞任したい旨の辞任届を提出し、原告の臨時株主総会はこれを承認し、同月六日、原告の取締役会は、優の役員退職金を二〇〇〇万円とする旨の決議をした。そして、同月二二日、優は、原告の取締役を辞任したので、原告は、本件事業年度において、優に対して二〇〇〇万円の役員退職金を計上し、本件事業年度の損金の額に算入した。

なお、原告は、昭和六二年一二月二九日に、原告が、優に対して、退職金として二〇〇〇万円を支払い、同日に、原告が、優から、右退職金の源泉所得税に係る預かり税金として二九四万九五〇〇円と優からの役員借入金として一七〇五万〇五〇〇円の合計二〇〇〇万円を受け取ったという内容の経理処理をし(甲六六、証人優)、同月三一日に、右役員借入金に、優からのその他の借入金を加算し、さらにこれらに対する支払利息(甲六六の3枚目)を加算した一九二〇万七一五九円を原告が優に支払い、同時に、短期借入金として同額を優から受け取ったという内容の経理処理をし(甲六六)、昭和六三年一月六日に、右短期借入金のうち一〇〇〇万円について、優に対して返済し、さらに同年二月一五日に、残額の九二〇万七一五九円について、優に返済したという内容の経理処理をしている(甲一八)。

また、昭和六三年一月二日付けで、優が、金塊一一キログラムを一九〇〇万円で、八重子から購入し、その代金支払は、同月六日に一〇〇〇万円を支払い、残額九〇〇万円を同年二月末日までに支払う旨の売買契約書(甲一一の3)が作成され、同年一月六日付けの八重子の優に対する一〇〇〇万円の領収書(甲一一の2)と同年二月一五日付けの八重子の優に対する九〇〇万円の領収書(甲一一の1)が作成されている。

そして、原告は、八重子から、短期借入金として、昭和六三年一月七日に二〇〇万円、同年一月八日に三〇〇万円、同年一月一四日に五〇〇万円、同年二月二三日に一二〇〇万円をそれぞれ受け取ったという内容の経理処理をしている(甲一八)。

なお、右退職金、優からの借入れと返済、金塊の代金の支払、八重子からの借入れはいずれも現金のやり取りが実際になされたわけではなく、経理上の処理だけでなされていた。

2(一)  ところで、本件においては、優が取締役に就任していた期間内である昭和五七年九月一四日から同年一〇月一四日までの間、当時原告の代表取締役であった高春は、後頭骨骨折、外傷性くも膜下出血により、鳥取市立病院に入院して治療を受けており、また同年一二月一六日から同月二八日までの間にも、神戸市立中央市民病院に入院して精査した結果、狭心症による重症冠硬化症と診断され、退院後の生活等について指導を受けていたこと(甲四ないし六)、原告は、昭和五九年から昭和六二年の間に、総額一〇億七〇三七万六六二二円の固定資産(土地、建物)を売却していること(甲一六、一七の1ないし8、二五の1ないし11、二六、二七の1、二八)、原告の役員や金融機関等からの借入金の額は、昭和五六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下は年のみで事業年度を表示する。)の一三億二八九〇万円をピークとして昭和六三年事業年度の七二七四万三五七一円まで減少を続け、平成元年事業年度は増加に転じて一億一四八九万七六五一円になったものの、平成二年事業年度には再び減少して四一八二万四五九一円になったこと(甲一五、二四の1ないし12、二九)などの事実が認められる。

そして、原告は、優が、原告の取締役に就任以来、的確な判断のもとに取締役として重要な職務を果たしており、本件事業年度においても、勤務歯科医師としての業務を行いながら、原告の固定資産の売却等を進言するなど会社経営に対する的確なアドバイスをしてきた旨主張し、証人優、原告代表者の各供述の中には、右のような原告の固定資産の売却や借入金の減少が、高春の前記病状もあって、もっぱら優の助言や進言によってなされたことを認める供述がある。しかしながら、その内容は抽象的であって、客観的な証拠に裏付けられていない上、原告の会社としての事業内容が優の学歴及び経歴とは関連性がなく、優が会社の経営に関し的確な助言や進言をすることができるような知識や経験を有していたものとは認め難いことを考慮すると、証人優、原告代表者の右供述部分を直ちに採用することはできず、他に右主張を認めるに足りる的確な証拠はない。

(二)  また、本件においては、優は、昭和五九年五月二九日、高春が鳥取銀行から手形貸付けを受けるに際して、八重子とともに連帯保証人となったこと(甲八、九)、原告の高春に対する借用書において、原告の連帯保証人として優の署名押印がなされていること(甲一二)、原告の八重子に対する借用書において、原告の連帯保証人として優の署名押印がなされていること(甲一三)などの事実が認められるが、右借入れの保証が直ちに優の取締役としての活動につながるものともいえないし、さらに優の医師としての信用というものは、取締役にならなければ得られないというものではないから、右借入れの保証をもって、優が取締役として活動していたことの証左であるということはできない。

(三)  したがって、本件においては、優が取締役として原告の経営上の問題について具体的に関与していたものと認めるには十分でないといわざるを得ない。

3  以上を前提にして検討するに、原告は同族会社であり、優は原告代表者である高春の長男であること、優が取締役として選任されていた間、優は、大学生又は勤務歯科医であったこと、優が在籍していた大学は岐阜に所在しており、また歯科大学であって不動産取引や宅地開発といった原告の事業とは関連性のない学部専攻であること、優は、大学を卒業後、不動産取引や宅地開発と関連性がない歯科医となり、鳥大附属病院等で勤務医として勤めていたことに加え、右2のとおり、優が取締役として原告の経営上の問題について具体的に関与していたものと認めるには十分でないことなどを併せ考えると、優は原告の取締役として登記されていたものの、現実には名目的な取締役にすぎなかったものと認めるのが相当である。

そして、優に対する役員報酬として支払われたとされる金員については、優が岐阜歯科大学に在学中は、役員報酬とされた額のうち優の生活費の一部である家賃や光熱費等の支払に充てた残りの額を送金したり、優が帰省した折に現金で手渡すというものであったこと、優が鳥大附属病院に勤務していた間は、優が帰省した折に現金で手渡すというものであったこと、優が鳥取市内にある実家から岩美病院に通勤していた間は、役員報酬として支払われていた金員は一切ないことなどからすると、高春が親として優に対して個人的になしていた経済的金銭的援助を原告の取締役役員報酬の形を取って処理していたものであると認めるのが相当である。

さらに、優に対する役員退職金として支払われたとされる金員については、それに係る経理的処理を全体的に検討してみるに、退職金として原告から優に対して支払われ、それが金塊の代金として八重子に対して支払われ、さらに、それが原告に対する貸付金として八重子から原告に対して支払われたという形になっており、原告から優に支払われたとされる役員退職金に見合うだけの経済的利益が、最終的には原告にそのまま戻ってきた形になっていること、また、実際にも、優が現実に現金を受け取ったことはなく、金塊を取得したことになっていること、昭和六二年一月当時に優が右金塊を購入することになった経緯についての具体的な事情は必ずしも明確ではないことなどからすると、高春が、優に対する役員退職金支払の形を取って、その金額に対応する経済的利益を、原告の経営上の利益のために使用したものと認めるのが相当である。

よって、優に対して支払われたとされる役員報酬や役員退職金については、高春が、親としての個人的な経済的金銭的援助を行ったり、原告の経営上の利益を図ったりするために、名目的な取締役にすぎない優に対する役員報酬や役員退職金の形を取って、これらに見合うところの経済的利益を自己の判断の下に自由に経理上の処理をしていたものといえるから、形式的には、優に対して支払われた形となってはいるものの、実質的には、優に対してではなく、高春に対して支払われたものであるというべきである。

したがって、役員報酬については、本件事業年度における高春の役員報酬の年額が、原告の取締役会の決議によって一八〇〇万円と決定されており、本件事業年度における法人税の申告において、一八〇〇万円を高春に対して支給したとして、既に一八〇〇万円を損金の額に算入しているところ、実質的に高春に支給されたことになる三〇〇万円の金員は、高春に対する役員報酬として右一八〇〇万円を超えるものとなるから、法人税法三四条一項、同法施行令六九条二号により、本件事業年度における損金の額に算入することはできないというほかない。

また、役員退職金については、実質的に高春に支払われたことになる二〇〇〇万円の金員は、本件事業年度において高春に支給された賞与として扱わざるを得ないところ、法人税法三五条一項、同四項により、本件事業年度における損金の額に算入することはできないというほかない。

したがって、この点について本件更正処分に違法はない。

三  争点1(三)について

1  証拠(甲七、二八、四四の1ないし4、五〇、乙六、二五、二七、二八、証人優、同鷲見、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 取引の経緯について

原告は、昭和六二年八月八日の取締役会の決議を経た上で、昭和六二年九月二五日、本件土地を代金五一〇〇万円で、本件土地上に存在する本件建物を代金二五〇〇万円で、それぞれ八重子に譲渡した。

八重子は、昭和五二年八月から昭和六一年一二月までの間、原告の取締役であったが、右取引がなされた昭和六二年九月二五日当時は、原告の従業員として経理を担当していた。その後、八重子は、平成三年一〇月に再び原告の取締役となり、その後、原告の代表取締役となって現在に至っている。

本件土地及び本件建物については、平成五年五月一八日付けで、昭和六二年九月二五日売買を原因として、八重子に対する所有権移転登記がなされた。

(二) 専門家による本件土地及び本件建物の評価額について

(1) 不動産鑑定士石谷英夫(以下「石谷鑑定士」という。)は、平成二年一二月二六日付けの不動産鑑定評価書(甲七)において、昭和六二年九月二五日の時点における本件土地及び本件建物の正常価格を七五〇〇万円と評価しているが、その評価方法は、近隣地域の範囲や公法上の規制、地域的特性及び標準的使用の現状と将来の動向という視点に基づく地域分析と、本件土地及び本件建物の位置、街路条件、交通・接近条件、環境条件、画地条件、行政的条件、利用の現状及び最有効使用の用途等の判定といった視点に基づく個別分析を加えた上で、収益還元法によって本件土地及び本件建物の収益価格を七〇〇九万円、さらに本件土地について取引事例比較法によって算定した比準価格に建付地であることによる減価率を考慮して算出した積算価格を五八九四万円、本件建物について再調達原価に耐用年数に基づく方法による減価率と観察減価法による減価率を考慮したことによる積算価格を四三四九万円とそれぞれ算定し、さらに、本件土地及び本件建物の収益価格七〇〇九万円と積算価格計一億〇二四三万円との間に開差があること、将来において増収の可能性があることを考慮して、最終的な評価額を七五〇〇万円としている。

(2) 不動産鑑定士鷲見正善(以下「鷲見鑑定士」という。)は、平成三年一一月二七日付けの不動産鑑定評価書(乙六)において、右(1)と同じ昭和六二年九月二五日の時点における本件土地及び本件建物の正常価格を七九九〇万円と評価しているが、その評価方法は、近隣土地の概況と本件土地及び本件建物の概要についてそれぞれ検討を加えた上で、本件土地について取引事例比較法に公示価格をも加味して算定した比準価格に本件土地の個別性に基づく個別格差と建付地であることによる減価率を考慮して算出される積算価格を五七三〇万円、本件建物について再調達原価に耐用年数に基づく方法による減価率と観察減価法による減価率を考慮したことによる積算価格を三五一〇万円、本件土地及び本件建物について収益還元法による収益価格を七六八〇万円とそれぞれ算定し、さらに、本件土地及び本件建物の積算価格計九二四〇万円と収益価格七六八〇万円との間に開差があること、右積算価格については最有効利用性の見地からはさらなる下方修正の余地が考えられること、右収益価格については現実の賃料がやや低めであるものの将来的な賃料の増額はなかなか難しい実情にあることなどを考慮して、収益価格を中心に調整することが妥当と判断し、収益価格と積算価格にそれぞれ八割と二割のウェイトを置いて調整し、最終的な評価額を七九九〇万円としている。

2  以上の事実を前提に検討する。

不動産評価方法には、主として原価法、取引事例比較法、収益還元法があるが(乙四八)、本件建物は、貸店舗及び賃貸住宅という賃貸物件であり、それが本件土地上に存在していることからすると、本件土地及び本件建物の賃貸不動産としての価値を把握するためには、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純利益の現価を求める手法である収益還元法を用いることも必要であるというべきところ、石谷鑑定士及び鷲見鑑定士の評価方法は、いずれも評価額の検討にあたって、原価法及び取引事例比較法に加え、収益還元法による検討も行っており、評価手法自体の問題として、合理性を有しているものといえるが、被告の主張する評価方法は、収益還元法による検討を全く欠くものであって、その評価手法自体の問題として、合理性を有しているとはいい難い。

しかも、従前、不動産の価格を評価するにあたっては、建物の評価について原価法による積算価格を、土地の評価について取引事例比較法による比準価格ないし積算価格を算出する場合が多かったこと(証人鷲見)、収益還元法による収益価格を算出する場合には、将来の時点における賃料等の賃貸借状況という予測事情をもその算出の基礎としなければならないことなどの事情からすると、賃貸物件の評価においては、収益価格の他に積算価格をも算出して検討を加えた上で、積算価格よりも収益価格をより重視した形で評価額を算定するのがより合理的であるといえる。

そして、石谷鑑定士の手法も鷲見鑑定士の手法も、積算価格と収益価格を算出した上で収益価格をより重視する手法を採用している点ではいずれも合理性を有するが、石谷鑑定士の手法は、積算価格を参考事情として考慮しているにすぎないのに対し、鷲見鑑定士の手法は、積算価格の比重も加味しているものであって(その割合は、収益価格八割、積算価格二割)、鷲見鑑定士の手法がより合理的であるといえる。

したがって、鷲見鑑定士の手法に従って本件土地及び本件建物の譲渡当時の時価を推認するのがもっとも合理的であるといえる。

そこで、さらに、右手法に従って算出された評価額について検討するに、鷲見鑑定士が算定した積算価格及び収益価格の算出方法については、その算出の基礎とすべき事情について欠けている要素ないし事情はない上、それらの要素ないし事情を基礎にいかなる程度の修正をするかという点については、それを一義的に決めることが極めて困難であることにかんがみると、その程度に著しい不均衡がない限りその修正はなお合理性を有するものと認めるのが相当であり、鷲見鑑定士の評価における修正の程度について著しい不均衡は認められないから、その修正方法は合理的であると認められ、したがって、それらの修正を経て算出された積算価格及び収益価格、並びにこれらを基礎として前記の手法により算定された評価額は数値的にも合理性を有するものというべきである。

よって、本件土地及び本件建物の譲渡当時の時価は、右1(二)(2)のとおり、七九九〇万円であると推認するのが相当である(なお、本件土地のみの譲渡当時の時価については、右積算価格における土地と建物の比率を右七九九〇万円に乗じて算出される四九五四万八三七六円と推認するのが相当である。)。

3  まとめ

したがって、本件各処分は、本件土地及び本件建物の譲渡当時の時価について、七九九〇万円を超える額を基礎としている点について違法があるから、右譲渡当時の時価と譲渡価格(七六〇〇万円)との差額である三九〇万円を超える額(一五四三万八六六八円)をいわゆる低額譲渡差額として所得金額に含めている部分は違法であり、さらに、本件土地の譲渡当時の時価について、四九五四万八三七六円を超える額を基礎としている点について違法があるから、右四九五四万八三七六円を超える額(六九四万三七五五円)を課税土地譲渡利益金額に含めている部分は違法である。

よって、本件更正処分のうち、所得金額一億三一一四万七八二六円を超える部分及び課税土地譲渡利益金額一億〇〇四五万円を超える部分はいずれも取り消されるべきであり、右部分に係る本件過少申告加算税賦課決定処分も取り消されるべきである。

四  なお、原告は、本件各処分に関する被告の調査手続の瑕疵(調査方法の違法、不当)が独立の違法事由となったとまではいえないが、違法、不当な調査方法が被告の独断につながったことにより、本件各処分の他の違法事由の遠因ないし背景事情となった旨主張するが、本件全証拠をもってしても、本件各処分に関する被告の調査手続自体に違法ないし不当な点をうかがわせる事情は認められない(なお、原告は、弁明の機会を与えられなかったから違法であると主張するが、原告には関与税理士がついており、税務調査の当時においても、当該税理士が原告の税務に関する相談を受けていたのであるから、必要に応じて然るべき方法で原告の言い分を被告に示すことができたはずであったこと、原告の関係者が被告の担当者と接触する機会はあったこと、本件更正処分に関する手続が秘密裡に行われたというような事情はうかがわれないことなど(乙一一の2、原告代表者)からすると、本件各処分について全く弁明の機会が付与されていなかったとは到底いえない。)。

五  争点2について

1  源泉所得税に関する本件各処分の取消しを求める本件訴えの適法性について

前記のとおり、原告は源泉所得税に関する本件各処分について異議申立てを経ていないのであるが、法人税算定の基礎となる所得金額の一部を構成する役員報酬、賞与及び給与に関する部分は、同時に源泉所得税算定の基礎となる支払額の一部を構成するものであって、相互に密接に関連するものであること、法人税の算定における場合と源泉所得税の算定における場合とで共通する報酬等についてその額が異なるものとして扱うことは、画一的な課税の見地からすると相当でないこと、右報酬等が減額した場合においてその減額を無視して源泉所得税を賦課して徴収することは、課税の基礎がないのに課税する結果となるから、それによって過剰に徴収した税金をそのまま国に帰属させておくことは、課税の謙抑性や公正、公平の見地からすると相当ではないこと、本件においては、法人税に関する本件各処分については異議申立て、審査請求及び本訴においてその適法性が争われてきており、各手続において、源泉所得税額の算出の基礎ともなっている役員報酬等の支払額についても審理がなされてきたのであるから、現時点でこれについて実体的な判断をしても、法的な安定性を害する危険性は少ないといえることなどの事情にかんがみれば、本件に関する限りにおいては、異議申立てについての決定又は審査請求についての裁決を経ていないことに関して国税通則法一一五条一項三号にいう正当な理由があったものというべきであるから、源泉所得税に関する本件各処分の取消しを求める本件訴えは適法である。

2  そして、前記二のとおり、優に対するものとして計上された役員報酬及び役員退職金については、これを高春に対する役員報酬又は役員賞与とみるのが相当であるから、この点において被告のなした処分に違法はない。

また、八重子が昭和六一年一二月に取締役を辞任後も引き続き原告の従業員として経理を担当していたこと及び八重子の原告の株式保有状況は、前記第二の一1及び第四の三1(一)に認定のとおりであるから、原告が八重子に譲渡した本件土地及び本件建物の譲渡価格と譲渡当時の時価との差額は、法人税法二条一五号、同法施行令七条二号、七一条一項四号により、八重子に対する臨時的な給与としての役員賞与とみなすのが相当であり、法人税法三五条一項、同四項により、本件事業年度における損金の額に算入しなかった点について違法はないが、その差額は、前記第四の三2及び同3のとおり、三九〇万円であると認めるのが相当であるから、本件各処分は、右金額を超える部分を基礎としている点において違法があるといわざるを得ない。

したがって、本件納税告知処分のうち高春に対する支払額二三〇〇万円と八重子に対する支払額三九〇万円の合計額二六九〇万円を超える額(四二三六万九〇八三円)を支払額に含めている部分は違法であって取り消されるべきであり、右部分に係る本件不納付加算税賦課決定処分も取り消されるべきである。

六  まとめ

以上によれば、本件更正処分のうち、所得金額一億三一一四万七八二六円を超える部分及び課税土地譲渡利益金額一億〇〇四五万円を超える部分はいずれも取り消すべきであるから、右部分に係る限度で本件過少申告加算税賦課決定処分も取り消すべきであり、また、本件納税告知処分のうち、支払額二六九〇万円を超える部分は取り消すべきであるから、右部分に係る限度で本件不納付加算税賦課決定処分も取り消すべきである。

なお、本件重加算税賦課決定処分については、前記二の認定事実及び検討結果によれば、違法な点は存在しない。

第五結語

以上によれば、原告の本訴請求は、〈1〉本件更正処分(ただし、平成八年九月三〇日付けで国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額一億三一一四万七八二六円を超える部分及び課税土地譲渡利益金額一億〇〇四五万円を超える部分、〈2〉本件過少申告加算税賦課決定処分(ただし、平成八年九月三〇日付けで国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)のうち本件更正処分の取り消されるべき部分に係る部分、〈3〉本件納税告知処分のうち支払額二六九〇万円を超える部分、並びに〈4〉本件不納付加算税賦課決定処分のうち本件納税告知処分の取り消されるべき部分に係る部分についてそれぞれその取り消しを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれをいずれも棄却し、訴訟費用の負担については、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六四条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一一年一〇月五日)

(裁判長裁判官 内藤紘二 裁判官 一谷好文 裁判官 三島琢)

(別表一)

課税処分経過表(昭和六二年一二月期の法人税)

〈省略〉

(別表二)

課税経過等一覧表

〈省略〉

(別表三)

課税土地譲渡利益金額の明細表

〈省略〉

(別表四)

課税処分経過表(昭和六二年一月分から同年一二月分の源泉徴収に係る所得税)

〈省略〉

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